韓国・蔚山大学日本語日本学科で講師をしていらっしゃる小松麻美様より、実践例をご共有いただきましたのでご紹介します。
(以下転載、一部省略)
韓国の大学で、日本語専攻の学生と一緒にカタルタをつかって「物語の創作」をしています。
一つは、大学の2年生~4年生までの自由選択科目のゼミ(ゼミといってもHRのようなクラス)で、日本語での詩や物語の創作をしているクラスです。
もう一つは、この夏(2019)初めて韓国の放送大学の日本語キャンプ(スクーリング)の中上級レベルの作文授業で使わせていただきました。こちらは社会人学習者が中心です。
どちらも12名前後で、全く日本語ができない人はいませんが、受講生の日本語レベルにはかなりバラつきがあります。
「書くこと」は本来、知的で創造的な作業だと思いますが、会話の授業などと比べると地味で時間もかかるのであまり好まれません。また、学生は「正確に書かなければ」とプレッシャーを感じがちです。ですので、このカタルタを使った創作(作文)クラスは、「とにかく楽しく書こう」というのを目標にしています。
使い方としては、まず「スタンダード版」でウォーミングアップをしたあと、「ストーリーテリング版+絵本」で、物語をつくります。
ウォーミングアップは、「スタンダード版」を使っています。これはカタルタの一般的な使い方をだと思いますが、たとえば「趣味」や「先週末は何をしましたか」「夏休みは何をしたいですか」などの質問にひと言答えてもらってから、カタルタを1枚(~2枚)引き、話を続けます。メンバー全員が話し終わるまでします。時間があればいくつかのテーマで同様にします。全員でやることもありますが、4~6人ずつのグループに分けてすることもあります。
カタルタの使い方に慣れたら、いよいよ「ストーリーテリング版」を使って物語を作ります。
①3~4人で1グループをつくり、各グループにカタルタを1セット用意します。
②絵本を(冒頭部分だけ)読みます。
③各自、カタルタを5枚引き、シートに書き出します。
④各自、5枚のうち2枚以上を使って、物語の続きを考えます。
⑤各自、完成した物語に、タイトルをつけます。
⑥クラスで物語を披露します。(製本もします)。
なにか取っ掛かりがあった方が物語をつくりやすいと思い、私のクラスでは絵本を使っています。
これまでに『りんごがドスーン』(多田ヒロシ・作、文研出版、1975年)、『あかいふうせん』(イエラ・マリ・作、ほるぷ出版、1976年)、『バスにのって』(荒井良二・作、偕成社、1992年)を使いました。お話しの続きとして、いろいろな展開が考えられそうなものを選ぶと良さそうです。
たとえば、『バスにのって』をつかった場合は、まず、「バスにのってとおくへ いくところです」「空はひろくて風はそよっとしています。まだバスはきません。」と、見開き2ページ目までみんなで絵本を見みました。そして、各自5枚ずつカードを引き、そのカードのうち3枚以上つかって物語の続きを考えます。最後に、自分がつくった物語に、新しいタイトルをつけて完成です。
完成したものは、他の詩や物語とともに作品集に収めます。
この活動は、日本語学習者にとって、直接的には、カードに書かれている「ことば」の意味がちゃんと理解できているか、それをうまく使えるかという学習になります。しかし、なによりも短い物語であっても一つの作品を自らつくりあげることで、大きな達成感が感じられるということが大きいです。また、物語の始まりは全員同じですが、引いたカード次第で内容は変わりますので、自分が「書く楽しみ」だけでなくて、仲間のストーリーを「読む楽しみ」もあります。
カタルタを使うことで物語づくりのハードルが下がり、普段のレポートでは発揮できない創造的想像力をフルに使って、学生たちは楽しみながら日本語を使いながら学んでいる、そう感じます。
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(付記)
以上、取り留めのないご報告になってしまいましたが、外国語としての日本語教育現場では、日本語でなにかをしなければならない/つくらなければならないという「場」を作り出すことが難しいです。そういう意味で、教師にとってカタルタは、教室に持ち込むことで「日本語の場づくり」を助けてくれる心強いツールだと思います。
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(転載ここまで)
大変丁寧なご報告をいただき、多くのヒントと考える機会を得ました。また、メールでも追加でやりとりさせていただき、理解を深めさせていただきました。小松様は、より詳細に実践を報告する記事を専門誌に投稿されたとのこと。発刊されましたら、ぜひこちらでもご紹介したいと思います。小松様、改めましてありがとうございました。
※実践された事例を共有いただける方、見聞きした事例をご紹介いただける方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。ご感想や気軽なご意見もお待ちしています。